「お好きなように」とねこ。「女王さまときょう、クロケーをするの?」
「したいのはやまやまだけど。でもまだしょうたいされてないの」
「そこで会おうね」といって、ねこは消えました。
 アリスはたいしておどろきませんでした。へんてこなことがおきるのに、もうなれちゃったからです。そしてねこがいたところを見ていると、いきなりまたあらわれました。
「ところでちなみに、赤ちゃんはどうなった?」とねこ。「きくのわすれるとこだった」
「ぶたになっちゃった」とアリスは、ねこがふつうのやりかたでもどってきたのとかわらない声で、しずかにいいました。
「だろうとおもった」ねこは、また消えました。
 アリスはちょっとまってみました。ねこがまたでてくるかも、とおもったのです。が、でてこなかったので、一分かそこらしてから、三月うさぎのすんでいるはずのほうに歩きだしました。「帽子屋さんならみたことあるし、三月うさぎのほうがおもしろいわよね。それにいまは五月だから、そんなすごくキチガイでないかもしれない――三月ほどには」こういいながら、ふと目をあげると、またねこがいて木のえだにすわっています。
「ぶたって言った、それともふた?」とねこ。
「ぶた。それと、そんなにいきなり出たり消えたりしないでくれる? くらくらしちゃうから」
「はいはい」とねこ。そしてこんどは、とてもゆっくり消えていきました。しっぽの先からはじめて、最後はニヤニヤわらい。ニヤニヤわらいは、ねこのほかのところが消えてからも、しばらくのこっていました。 アリスは思いました。「あらま! ニヤニヤわらいなしのねこならよく見かけるけれど、でもねこなしのニヤニヤわらいとはね! 生まれて見た中で、一番へんてこなしろものだわ!
ほんのしばらく歩くと、三月うさぎのおうちが見えてきました。まちがいないと思ったのは、えんとつが耳のかっこうをしていて、屋根が毛皮でふいてあったからです。あんまりおっきなおうちだったもので、左手のキノコをちょっとかじって、身長60センチくらいになってからでないと、近づきたくありませんでした。それでもなお、びくびくしながらちかづいて、その間もこう思っていました。「やっぱりすごくキチガイかも! やっぱり帽子屋さんのほうに会いにいけばよかったかなあ!」